財務報告の範囲・日米比較

昨日、「「内部統制報告制度に関する11の誤解」批判への批判に対する批判」の中で、金融商品取引法に基づく内部統制報告制度は米国SOX法よりも厳格な制度になっている点がある(持分法適用会社が評価対象、内部統制報告書の提出先が内閣総理大臣)ということを書いた。
本日、もう1点、日本のほうが米国より厳格である例(財務報告の範囲)を紹介する。

財務報告の範囲について、我らが金融庁の「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」には、下記のくだりがある。

「財務報告」とは、財務諸表及び財務諸表の信頼性に重要な影響を及ぼす開示事項等に係る外部報告をいう。

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マル1*1 財務報告の範囲
イ. 「財務諸表」とは、連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(昭和51年大蔵省令第28号)第1条に規定する連結財務諸表及び財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(昭和38年大蔵省令第59号)第1条に規定する財務諸表をいう。
ロ. 「財務諸表の信頼性に重要な影響を及ぼす開示事項等」とは、有価証券報告書等における財務諸表以外の開示事項等で次に掲げるものをいう。
a. 財務諸表に記載された金額、数値、注記を要約、抜粋、分解又は利用して記載すべき開示事項(以下「財務諸表の表示等を用いた記載」という。)。
例えば、有価証券報告書の記載事項中、「企業の概況」の「主要な経営指標等の推移」の項目、「事業の状況」の「業績等の概要」、「生産、受注及び販売の状況」、「研究開発活動」及び「財政状態及び経営成績の分析」の項目、「設備の状況」の項目、「提出会社の状況」の「株式等の状況」、「自己株式の取得等の状況」、「配当政策」及び「コーポレート・ガバナンスの状況」の項目、「経理の状況」の「主要な資産及び負債の内容」及び「その他」の項目、「保証会社情報」の「保証の対象となっている社債」の項目並びに「指数等の情報」の項目のうち、財務諸表の表示等を用いた記載が挙げられる。

なお、この点に係る経営者の評価は、財務諸表に記載された内容が適切に要約、抜粋、分解又は利用される体制が整備及び運用されているかについてのものであることに留意する。
b. 関係会社の判定、連結の範囲の決定、持分法の適用の要否、関連当事者の判定その他財務諸表の作成における判断に密接に関わる事項
例えば、有価証券報告書の記載事項中、「企業の概況」の「事業の内容」及び「関係会社の状況」の項目、「提出会社の状況」の「大株主の状況」の項目における関係会社、関連当事者、大株主等の記載事項が挙げられる。

なお、この点に係る経営者の評価は、これらの事項が財務諸表作成における重要な判断に及ぼす影響の大きさを勘案して行われるものであり、必ずしも上記開示項目における記載内容の全てを対象とするものではないことに留意する。

即ち、財務報告の範囲には、財務諸表の他に、「財務諸表及び財務諸表の信頼性に重要な影響を及ぼす開示事項等」すなわち「財務諸表の表示等を用いた記載」および有価証券報告書等に記載される各種の非財務情報(「事業の内容」「関係会社の状況」「大株主の状況」等)(以下、後二者を併せて「非財務情報」という)が含まれ、内部統制の評価および監査の対象となっている。

これに対して、米国SOX法はどうか。

サーベンス・オクスレー法概説―エンロン事件から日本は何を学ぶのか (JLF叢書)

サーベンス・オクスレー法概説―エンロン事件から日本は何を学ぶのか (JLF叢書)

「SECは、サーベンス・オクスレー法302条(a)項(4)で念頭に置かれている統制とは、開示の質と適時性に関する統制・手続を具体化することを意図するものと理解し、その趣旨を明確にするために「開示統制および手続」という用語を新たに定義し、従前から存在する「内部統制」と区別している。
つまり、同法404条に基づく「内部統制」は、財務報告や資産の統制などの財務情報に関するものであるが、同法302条(a)項(4)による統制は、財務情報だけでなく非財務情報についても上級役員が認証することを求めていると解釈している。」
(「サーベンス・オクスレー法概説」(石田眞得編著、商事法務)p184)

上記書籍の説明によると、有名なSOX404条に定める内部統制の評価と監査の対象となる財務報告は、専ら財務諸表に限られ、非財務情報(を含む財務報告全体の開示内容)については、経営者による「認証」(金融商品取引法24条の4の2でいう「確認書」に相当)のみが義務付けられているものの、内部統制評価および監査の対象にはなっていない。
ここでも、米国SOX法への批判を踏まえて負担の軽減を図ったという金融庁の説明に虚偽・偽装があることが明らかである。国民の税金で運営している行政機関が、納税者たる国民に向かってウソをついてはいけない。

*1:ITと相性の悪いマル付き数字。ここでは文字化けするので「マル1」等と表記