意図的誤訳

「エコノミック・アニマル」は褒め言葉だった―誤解と誤訳の近現代史 (新潮新書)

「エコノミック・アニマル」は褒め言葉だった―誤解と誤訳の近現代史 (新潮新書)

「IT革命」のように、外国語を自分の都合のいいように翻訳・解釈して世の中に無用の混乱をもたらす事例は多い。少し古いところでは「エコノミック・アニマル」は褒め言葉だったという話がある(上記リンク参照)。この本の著者のすごいところは、原典にこだわり、かつ関係者の証言などを分析しながら、言葉の正確な意味を明らかにするとともに誤訳や誤解の生じた経緯・メカニズムを検証している点にある。他にも興味深いエピソード多数。ということはさておき。
最近マスコミでもちょくちょく目や耳にするようになった「企業改革法」「SOX法」も、そんな意図的誤訳の類である。そもそも米国の「企業改革法」の正式名称は「Public Company Accounting Reform and Investor Protection Act of 2002」であり、「上場企業会計改革および投資家保護法」とも訳される。
http://www.atmarkit.co.jp/aig/04biz/sox.html
この法律のキーワード中のキーワードである「会計」と「投資家保護」をなぜか省略して「企業改革法」などといういかにもおどろおどろしい「短縮形」(まるで、「このに賞味期限を迎える冷蔵庫の野菜のリゾット」を「春野菜のリゾット」と略すようなものである byしりあがり寿)を考案したのは一体誰なのか。一度原典を調べてみると面白いかもしれない。
ちなみに「SOX法」というのは、米国ではよくある法案提出者の名前を冠した通称であるが、これに「日本版」をくっつけて「日本版SOX法(またはJ-SOX)」という珍妙な呼称も散見される。さらに大げさな印象を与えんとして「来るべき(または「迫り来る」など)日本版SOX法への対応」などと喧伝する輩が多いのにも閉口させられるところではある。
昨日のテレビ東京「ワールド・ビジネス・サテライト」の中で、「日本版SOX法」によって企業に電子メールの保存義務が課せられるため、これがIT企業にとって一つのビジネスチャンスになっている、というはなはだしい事実誤認のニュースをやっていて唖然とした。マスコミこそ、真っ先に原典にあたり、正確な報道を心がけてほしい。