監査役 VS 会計監査人 (VS 取締役)

「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」(以下、「実施基準」)には、監査役と(会計)監査人との関係について以下の記述がある。

会社法上、監査役又は監査委員会は、会計監査人が計算書類について実施した会計監査の方法と結果の相当性を評価することとされている。
一方、本基準で示す内部統制監査において、監査人は、監査役が行った業務監査の中身自体を検討するものではないが、財務報告に係る全社的な内部統制の評価の妥当性を検討するに当たり、監査役又は監査委員会の活動を含めた経営レベルにおける内部統制の整備及び運用状況を、統制環境、モニタリング等の一部として考慮する。

監査役は、業務監査において会計監査人の職務を「評価」する一方、(会計)監査人は、内部統制監査において、監査役の活動を統制環境等の一部として「考慮」する。「評価」「考慮」という表現になっているが、事実上、お互いの職務の適正性を監査することになる。

この点、まず会社法(会社計算規則)の規定を確認すると、

(会計監査人設置会社の監査役の監査報告の内容)
第百五十五条  会計監査人設置会社の監査役は、計算関係書類及び会計監査報告(第百五十八条第三項に規定する場合にあっては、計算関係書類)を受領したときは、次に掲げる事項(監査役会設置会社監査役の監査報告にあっては、第一号から第五号までに掲げる事項)を内容とする監査報告を作成しなければならない。
一  監査役の監査の方法及びその内容
二  会計監査人の監査の方法又は結果を相当でないと認めたときは、その旨及びその理由(第百五十八条第三項に規定する場合にあっては、会計監査報告を受領していない旨)
三  重要な後発事象(会計監査報告の内容となっているものを除く。)
四  会計監査人の職務の遂行が適正に実施されることを確保するための体制に関する事項
五  監査のため必要な調査ができなかったときは、その旨及びその理由
六  監査報告を作成した日
http://law.e-gov.go.jp/announce/H18F12001000013.html

注目すべきは「四  会計監査人の職務の遂行が適正に実施されることを確保するための体制に関する事項」である。これは、会計監査人(監査法人)における内部統制システム!の状況を監査役が評価し、監査報告書に記載するということを意味する。

また、「実施基準」の公開草案に対する日本監査役協会のパブリックコメントに、次のような記載がある。

企業会計審議会内部統制部会「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準(公開草案)」に対する意見     社団法人 日本監査役協会
 
..内部統制について言えば、監査役は、取締役会による内部統制に関する基本方針の決議及び経営者に対する監督義務の履行状況、並びに経営者による内部統制の構築・運用状況を監視し検証する権限と責任を有しており、内部統制の基本的要素の一つである「統制環境」の機能状況を独立して評価する存在であります。
この点、本実施基準案によると、監査役は、同じく内部統制の基本的要素の一つである「モニタリング」を担う存在の一つとして規定されております(「Ⅰ.内部統制の基本的枠組み」14頁②ハ)。しかし、監査役は、モニタリングをも含めた内部統制の6つの基本的要素のすべてが、取締役等により適切に整備され運用されているかを監視し検証する権限と責任を有しているのであって、決して監査役がモニタリングの担い手として位置するものではありません。
4.本実施基準案では、上記のとおり、監査役も内部統制の構成要素の一つである「モニタリング」を担う存在として位置づけられているために、監査役又は監査委員会の機能状況等が経営者又は監査人による評価・検討の対象として扱われているなど、会社機関相互の権限・責任について、会社法規定との間に乖離が生じている記述が散見されます。http://www.kansa.or.jp/siryou/elibrary/el_006.html

丁重な表現ながら、監査役の位置付けについて、会社法を根拠として、実施基準の矛盾点を明確に指摘している。しかしこの意見は完全に無視され、実施基準に取り入れられなかったのは残念というほかない。

さらに、再び実施基準に戻り、財務報告に係る全社的な内部統制の評価項目の例(以前にもここで取り上げたが)の中に、以下の記述がある。

統制環境
..
・取締役会及び監査役又は監査委員会は、財務報告とその内部統制に関し経営者を適切に監督・監視する責任を理解し、実行しているか。
監査役又は監査委員会は内部監査人及び監査人と適切な連携を図っているか。

ここでは取締役が、監査役の職務執行状況を、全社的な内部統制の構成要素である統制環境の一部として評価することが想定されている。しかし、日本監査役協会が指摘したように、監査役は内部統制の一部ではなく、取締役によって整備・運用されている内部統制システム(当然ながら、その一部としての統制環境を含む)の有効性を評価する立場にある。その監査役の職務を監査対象である取締役が評価するというのは、論理的に矛盾している上、会社法との整合性も図られていないのである。
例えば、もし、監査役が任務懈怠により取締役会に出席しなかったり内部監査人と連携をとっていなかったりという状況がある場合に、取締役は全社的な内部統制に不備があるという評価をすることになるのであろうか。現実問題として、そのような評価を取締役が行うことは難しいと考えられるが、逆にそのことを内部統制報告書に記載しなかった場合、財務報告に係る内部統制の重要な欠陥を認識しながらこれを記載しなかったとして虚偽記載罪に問われるリスクを負うことになる。

以上を整理すると、
・取締役は、内部統制システムを整備・運用する(会社法金融商品取引法)とともに、自らその有効性を評価(全社的な内部統制の一部として、監査役の職務執行状況を評価対象に含む)する(金融商品取引法および実施基準)。
監査役は、取締役が整備・運用する内部統制システムの有効性を評価するとともに、会計監査人の職務の遂行が適正に行われているかどうかを評価する(会社法;会社計算規則)。
・(会計)監査人は、取締役が整備・運用する財務報告に係る内部統制について、当該取締役がその有効性を評価した結果について監査する。
結局、誰が誰を評価する権限を有しているのか、その結果について誰が誰に責任を負っているのか、非常にわかりにくい法制度になっているのである。