金融商品取引法の罰則規定

金融商品取引法(いわゆる「日本版SOX法」)では、有価証券報告書を作成する企業に対し内部統制報告書の提出が義務付けられるとともに、内部統制報告書に虚偽記載があった場合には有価証券報告書等に虚偽記載があった場合(いわゆる粉飾決算)と同様、罰則も科されることになっている。具体的には、同法の第百九十七条の二の第五号および第六号に当該規定がある。

第百九十七条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

五 第二十四条第一項若しくは第三項(これらの規定を同条第五項(第二十七条において準用する場合を含む。)及び第二十七条において準用する場合を含む。)若しくは第二十四条第六項(第二十七条において準用する場合を含む。)の規定による有価証券報告書若しくはその添付書類、第二十四条の二第一項(第二十七条において準用する場合を含む。)において準用する第十条第一項の規定による訂正報告書、第二十四条の四の四第一項(同条第三項(第二十七条において準用する場合を含む。)及び第二十七条において準用する場合を含む。)若しくは第四項(第二十七条において準用する場合を含む。)の規定による内部統制報告書若しくはその添付書類、第二十四条の四の五第一項(第二十七条において準用する場合を含む。)において準用する第十条第一項の規定による訂正報告書、第二十七条の三第二項(第二十七条の二十二の二第二項において準用する場合を含む。)の規定による公開買付届出書、第二十七条の十一第三項(第二十七条の二十二の二第二項において準用する場合を含む。)の規定による公開買付撤回届出書、第二十七条の十三第二項(第二十七条の二十二の二第二項において準用する場合を含む。)の規定による公開買付報告書、第二十七条の二十三第一項若しくは第二十七条の二十六第一項の規定による大量保有報告書又は第二十七条の二十五第一項若しくは第二十七条の二十六第二項の規定による変更報告書を提出しない者

六 第二十四条第六項若しくは第二十四条の二第一項(これらの規定を第二十七条において準用する場合を含む。)、第二十四条の四の四第一項(同条第三項(第二十七条において準用する場合を含む。)及び第二十七条において準用する場合を含む。)若しくは第四項(第二十七条において準用する場合を含む。)、第二十四条の四の五第一項(第二十七条において準用する場合を含む。)、第二十四条の四の七第一項若しくは第二項(同条第三項(第二十七条において準用する場合を含む。)及び第二十七条において準用する場合を含む。)、第二十四条の四の七第四項(第二十七条において準用する場合を含む。)、第二十四条の五第一項(同条第三項(第二十七条において準用する場合を含む。)及び第二十七条において準用する場合を含む。)若しくは第二十四条の五第四項若しくは第五項(これらの規定を第二十七条において準用する場合を含む。)の規定による添付書類、内部統制報告書若しくはその添付書類、四半期報告書、半期報告書、臨時報告書若しくはこれらの訂正報告書、第二十四条の六第一項若しくは第二項の規定による自己株券買付状況報告書若しくはその訂正報告書、第二十四条の七第一項若しくは第二項(これらの規定を同条第六項(第二十七条において準用する場合を含む。)及び第二十七条において準用する場合を含む。)若しくは第二十四条の七第三項(同条第六項(第二十七条において準用する場合を含む。)及び第二十七条において準用する場合を含む。)において準用する第七条、第九条第一項若しくは第十条第一項の規定による親会社等状況報告書若しくはその訂正報告書、第二十七条の十第一項の規定による意見表明報告書、同条第八項において準用する第二十七条の八第一項から第四項までの規定による訂正報告書、第二十七条の十第十一項の規定による対質問回答報告書、同条第十二項において準用する第二十七条の八第一項から第四項までの規定による訂正報告書、第二十七条の二十三第一項若しくは第二十七条の二十六第一項の規定による大量保有報告書、第二十七条の二十五第一項若しくは第二十七条の二十六第二項の規定による変更報告書又は第二十七条の二十五第四項(第二十七条の二十六第六項において準用する場合を含む。)若しくは第二十七条の二十九第一項において準用する第九条第一項若しくは第十条第一項の規定による訂正報告書であつて、重要な事項につき虚偽の記載のあるものを提出した者

この条文を読んで、ぱっと理解できる人はどれぐらいいるだろうか。わかりにくさの度をはるかに超えて、目がチカチカして見づらい。ほとんど前衛詩のようですらある。しかし、参照条文の条数を削除すれば、たちどころにシンプルな文が現れる。

五 
第二十四条第一項若しくは第三項(これらの規定を同条第五項(第二十七条において準用する場合を含む。)及び第二十七条において準用する場合を含む。)若しくは第二十四条第六項(第二十七条において準用する場合を含む。)の規定による有価証券報告書若しくはその添付書類

第二十四条の二第一項(第二十七条において準用する場合を含む。)において準用する第十条第一項の規定による訂正報告書

第二十四条の四の四第一項(同条第三項(第二十七条において準用する場合を含む。)及び第二十七条において準用する場合を含む。)若しくは第四項(第二十七条において準用する場合を含む。)の規定による内部統制報告書若しくはその添付書類

第二十四条の四の五第一項(第二十七条において準用する場合を含む。)において準用する第十条第一項の規定による訂正報告書

第二十七条の三第二項(第二十七条の二十二の二第二項において準用する場合を含む。)の規定による公開買付届出書

第二十七条の十一第三項(第二十七条の二十二の二第二項において準用する場合を含む。)の規定による公開買付撤回届出書

第二十七条の十三第二項(第二十七条の二十二の二第二項において準用する場合を含む。)の規定による公開買付報告書

第二十七条の二十三第一項若しくは第二十七条の二十六第一項の規定による大量保有報告書又は第二十七条の二十五第一項若しくは第二十七条の二十六第二項の規定による変更報告書

を提出しない者

六 

第二十四条第六項若しくは第二十四条の二第一項(これらの規定を第二十七条において準用する場合を含む。)、第二十四条の四の四第一項(同条第三項(第二十七条において準用する場合を含む。)及び第二十七条において準用する場合を含む。)若しくは第四項(第二十七条において準用する場合を含む。)、第二十四条の四の五第一項(第二十七条において準用する場合を含む。)、第二十四条の四の七第一項若しくは第二項(同条第三項(第二十七条において準用する場合を含む。)及び第二十七条において準用する場合を含む。)、第二十四条の四の七第四項(第二十七条において準用する場合を含む。)、第二十四条の五第一項(同条第三項(第二十七条において準用する場合を含む。)及び第二十七条において準用する場合を含む。)若しくは第二十四条の五第四項若しくは第五項(これらの規定を第二十七条において準用する場合を含む。)の規定による添付書類、内部統制報告書若しくはその添付書類、四半期報告書、半期報告書、臨時報告書若しくはこれらの訂正報告書

第二十四条の六第一項若しくは第二項の規定による自己株券買付状況報告書若しくはその訂正報告書

第二十四条の七第一項若しくは第二項(これらの規定を同条第六項(第二十七条において準用する場合を含む。)及び第二十七条において準用する場合を含む。)若しくは第二十四条の七第三項(同条第六項(第二十七条において準用する場合を含む。)及び第二十七条において準用する場合を含む。)において準用する第七条、第九条第一項若しくは第十条第一項の規定による親会社等状況報告書若しくはその訂正報告書、

第二十七条の十第一項の規定による意見表明報告書

同条第八項において準用する第二十七条の八第一項から第四項までの規定による訂正報告書

第二十七条の十第十一項の規定による対質問回答報告書

同条第十二項において準用する第二十七条の八第一項から第四項までの規定による訂正報告書

第二十七条の二十三第一項若しくは第二十七条の二十六第一項の規定による大量保有報告書

第二十七条の二十五第一項若しくは第二十七条の二十六第二項の規定による変更報告書

又は第二十七条の二十五第四項(第二十七条の二十六第六項において準用する場合を含む。)若しくは第二十七条の二十九第一項において準用する第九条第一項若しくは第十条第一項の規定による訂正報告書

であつて、重要な事項につき虚偽の記載のあるものを提出した者

すなわち、

第百九十七条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
五 ..内部統制報告書若しくはその添付書類、..を提出しない者
六 ..内部統制報告書若しくはその添付書類..であつて、重要な事項につき虚偽の記載のあるものを提出した者
 
追記:法人に対する罰則については、下記の通りである。念のため。

第二百七条  ..法人に対して当該各号に定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。
(略)
二  第百九十七条の二(第十一号及び第十二号を除く。) 五億円以下の罰金刑


粉飾決算をしていなくても、内部統制の欠陥等を開示しなかった場合には罰則が科される。逆に、粉飾決算をしていても、内部統制の欠陥等がなかったことが適正に評価されておれば、内部統制報告書の虚偽記載を理由とした処罰は免れる(が粉飾決算自体の処罰は免れない)。論理的には、粉飾決算をしていたということは、内部統制に何らかの欠陥があったことが(少なくとも)原因の(一つ)であるか、いわゆる内部統制の限界によって粉飾決算を発見ないし抑止できなかった場合が考えられる。粉飾決算の原因が内部統制の欠陥なのか、限界なのかはどのように判別されるのであろうか。

内部統制の限界については、金融庁企業会計審議会内部統制部会の現時点での最新?文書である「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準のあり方について」の17ページに記載されている。

3.内部統制の限界
内部統制は、次のような固有の限界を有するため、その目的の達成にとって絶対的なものではないが、各基本的要素が有機的に結びつき、一体となって機能することで、その目的を合理的な範囲で達成しようとするものである。
(1) 内部統制は、判断の誤り、不注意、複数の担当者による共謀によって有効に機能しなくなる場合がある。
(2) 内部統制は、当初想定していなかった組織内外の環境の変化や非定型的な取引等には、必ずしも対応しない場合がある。
(3) 内部統制の整備及び運用に際しては、費用と便益との比較衡量が求められる。
(4) 経営者が不当な目的の為に内部統制を無視ないし無効ならしめることがある。

そして、同「基準のあり方について」の中で、「内部統制の固有の限界」を内部統制報告書の記載事項とし(24ページ)、また内部統制監査の対象とする(29ページ)旨の記述が見られる。
例えば、カネボウ事件の原因は内部統制の欠陥ではなく限界(「経営者が不当な目的の為に内部統制を無視」「複数の担当者による共謀」等に該当)であると解されるが、果たして第2第3のカネボウ事件が発生したときに、内部統制報告書には「粉飾決算をやりましたが、内部統制の限界によるものであり、欠陥はありませんでした」と書くことも許されるのだろうか。考えれば考えるほど、謎の多い法律である。