これだけは..「内部統制の考え方と実務」

これだけは知っておきたい内部統制の考え方と実務
斯界の第一人者にして最高権威、金融庁企業会計審議会内部統制部会長による(財務報告に係る)内部統制の解説本。しかし、その内容は、???な点が..
「内部統制でライブドア事件は防げたか」という興味深い一節。

ライブドアでは、以下の点で内部統制が有効に機能していなかったと考えられます。
1.トップを含む一握りの上層部の不当な経営姿勢が企業内に蔓延し、それを評価するはずの監査役が機能していなかった。
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(前掲P74〜より引用)

監査役が機能していないというのは、内部統制の問題ではなく、コーポレート・ガナバンスの問題である。経営トップによる不正は、本書の直前の項で述べられている「内部統制の限界」そのものの事例であって、「内部統制の不備」によるものではない。
ライブドア事件は、「内部統制の不備」によって起こったのではなく、「トップからの指示が直接、各担当者に伝達される」(同P75)等により、むしろ徹底的に内部統制を機能させた結果、起こったのではないか。
同様の誤解は、「求められる監査役の支援体制」の一節にも見られる。

問題は、社内での支援体制、具体的には、監査役がモニタリングの役割を果たすために必要な資源、すなわちヒトとカネです。
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現実的にいちばん可能性が高いのは、内部監査部門をここにあてることだと思います。内部監査部門、あるいはそうした役割を担ってきた人たちを監査役のもとに集約させることで、より効率的にモニタリング機能を発揮できるようになると思います。
(同P124〜より引用)

内部監査部門は、(監査役ではなく)取締役の指揮を受けるということは、企業組織における原則(常識)である。監査役は、独立機関として、取締役の職務を監視する立場にある。その監査役が、取締役の指揮をうける内部監査部門を部下に持つことは適切でない。
会社法は、監査役の職務を補助する使用人について、取締役からの独立性を要求している(会社法施行規則第100条第3項第2号)。取締役の指揮下にある内部監査部門を監査役の下に置くことは、会社法の趣旨に照らしても、妥当でない。
監査役と内部監査部門は、情報の共有化など適宜連携を図るべきであるが、指揮し、される関係になるべきではない。
つまるところ、本書は、コーポレート・ガバナンスと内部統制の基本的概念に関する誤解または混乱、また企業の組織・運営・実務に対する認識不足のもとに書かれたように思われる。
巻末の付録「財務報告に係る内部統制の評価および監査の基準案」(正確には「基準案」ではなく「基準のあり方について」)も水増しっぽいし、ていうか、そもそも、公職にある人が、税金を使って検討した内容を含むこのような本を出版して私益を得ることは、コンプライアンス上、または倫理上、問題ないのだろうか。
いろんな意味で、この本は買ってはいけない。読んではいけない。自分は買って読んじゃったけど..orz