内部監査部門の独立性

内部監査部門の「独立性」という問題が醸し出す違和感について考えてみる。
まず、米COSO報告書において、内部統制の構成要素の一つである「監視活動」は、次のように定義されている。

監視活動
事業体が定めたコントロールが実行されていることを監視(確認)する活動のこと(日常的な監視活動と独立的評価活動に分類される)

「独立的評価活動」の一つが内部監査である。内部統制の構成要素の一つである内部監査によって、自らを含む内部統制の有効性を評価するのである。「独立的評価」といいながら、論理的には、ちっとも独立なんかしていないのである。ちなみにCOSO報告書における「独立的評価」の原文は"separate evaluations"であり、"independent evaluations"でないこと(しかもご丁寧に"combination of the two"、すなわち日常的監視活動と「独立的」評価の連携に言及)に留意されたい。

Monitoring
Internal control systems need to be monitored--a process that assesses the quality of the system's performance over time. This is accomplished through ongoing monitoring activities, separate evaluations or a combination of the two.
http://www.coso.org/publications/executive_summary_integrated_framework.htm


すなわち、内部監査部門は、監査対象の事業体に所属しながら「独立的」に監査を行うことになる。では、内部監査部門は何に対して「独立」しているのだろうか。この点について、日本内部監査協会の「内部監査基準」は、次のように述べている。

内部監査の独立性と組織上の位置
..内部監査機能は、その対象となる諸活動についていかなる是正権限や責任も負うことなく、組織的に独立し..
..内部監査部門は、組織上、原則として、最高経営者に直属し、同時に、取締役会または監査役会もしくは監査委員会への報告経路を確保する。
http://www.iiajapan.com/guide/index.htm

これによると、内部監査部門は「最高経営者に直属」、すなわち一般的な企業では社長直属である必要があるということになる。しかし、内部監査部門に限らず何らかの組織は社長に「直属」しているはずである。もちろん、社長と部長の間には、副社長、専務、常務、ヒラ取締役、執行役員、理事、参事その他の中二階的役職員が介在することがあるが、それらの職位のうち、最高位のものが当該部門の責任者であり、それが社長に「直属」している限り「直属」性については何ら問題はないはずである。
であるならば、何ゆえに内部監査部門の「独立性」のみを云々する必要があるのか。
むしろその前のくだりで「その対象となる諸活動についていかなる是正権限や責任も負うことなく」というのが内部監査部門としての「独立性」の要件だと解釈すれば、単に他の(業務執行)機能と内部監査機能が明確に分離(=separate)されていればよいのであって、「直属」である必要はないはずである。もとより社長は業務執行の最高かつ最終的な責任者であるのだから、内部監査部門が社長に「直属」したところで、どこまでいっても業務執行から「独立」したことにはならないのである。
要は、内部監査を担当する者が、同時に経理・人事・販売・購買・製造などの業務執行に責任を負わなければ、十分に独立性はあると言える。そして、通常、業務執行の責任者を兼ねた内部監査人というものは存在しないだろう。

内部監査にとってより重要なことは、必要な情報が内部監査部門に伝達され、経営や業務の仕組みを改善するための助言・支援が機能することであって、単に組織が独立していればよいというものではないだろう。独立はしているが情報が入ってこない内部監査部門よりは、より現場に近いところでビビッドに情報が入ってくる、あるいは気軽に相談に行けるような内部監査部門のほうが有効に機能していると思われるのだが、如何であろうか。

にも関わらず、監査法人などの外部の(独立)監査人から内部監査部門の「独立性」を要求する声が聞こえてくるのは、内部監査部門が「独立」することによって、自らの責任が軽減される(独立性の高い内部監査部門からの報告は信頼できる。従って、それを前提として適正意見を出した外部監査人に責任はない??)、あるいは内部統制(内部監査)により依拠した外部監査にシフトすることによって自らの業務負荷が軽減され(外部監査人の仕事を内部監査人に移管??)、さらに従来の会計監査に加えて内部統制監査に係る報酬が増えることを期待している(のはどうも納得がいかない。責任は軽くなる、仕事はラクになる、しかし報酬は増える..??)とでも考えているのか、とも思われるが如何であろうか。
ここはひとつ、冷静に、かつ勇気を持って「一体、誰のための内部統制なのか!?」と叫んでみる必要があるのかもしれない。