会社法の内部統制と善管注意義務

またまた会社法&内部統制の件で恐縮ではあるが、会社法の内部統制と善管注意義務の関係について、興味深い書き込みを見つけたので。

(引用者注:昭和57年の神崎克郎教授の論文において)取締役の監視義務を、個々具体的な事案のなかで議論する「場当たり的な」事実認定(およびその法的評価)では、取締役にとって、どこまでの監視をすれば免責されるのか、非常に曖昧であって、萎縮的効果も発生してしまうため(その結果、取締役の職務執行の効率性まで失われてしまう)、取締役の「やるべき範囲」を自ら構築して、その代わり業務の適正を確保する体制の構築整備に努力していれば、監視義務違反には問わない、といった理論を提唱されていました。
(「ビジネス法務の部屋」
http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/cat5856883/index.html

内部統制における「合理的保証」や限界についての考え方が明確に主張されており、今日的にも、私的にも、深く納得できる内容である。ところが、その次の段落で、

いままさに新会社法のもとで、内部統制システムが重要な柱として議論されるに至り、この神崎教授の論文で用いられている「内部統制システム」の定義も、ほぼ同じままに会社法の条文、会社法施行規則の条文に採り入れられておりまして、24年も前に神崎先生が遠くに見つめておられた「法律学における内部統制システムの構築」が、ついにこの5月、姿を現したことになります。
(同上)

ここの記述には全く同意できない。なぜなら、会社法における内部統制は、取締役の「やるべき範囲」を示さず、「業務の適正を確保する体制の構築整備に努力していれば、監視義務違反には問わない」なーんてことも一切言っていないから。なので、案の定、「萎縮的効果」が発生しつつあるのではないだろうか。

これとの関係で、もうひとつ紹介。

大企業の場合には、会社法にいう大会社・委員会設置会社でなくても、適正な内部統制システム構築を果たさなければ、経営陣は善管注意義務などに違反するという意味で「違法」となりうる。
(「IT弁護士の眼」(NikkeiBP ITpro)
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Watcher/20060506/236981/

大会社が会社法に基づく決議をしなかった場合は、明確に違法となるが、決議していても、さらに言えば大会社でなくても、そもそも取締役には善管注意義務の一環としての内部統制システム構築義務があるのであって、その内容が適正でなければ「違法」になりうる、と「IT弁護士」氏によるこの記事は述べているのである。だから、会社法は取締役の「やるべき範囲」を明示したものでも、一定の条件のもとで免責するものでもないことは、明らかである。ここまではよい。しかし、それに続く

 とはいっても、善管注意義務に基づいて大綱を決定せよ、といわれても何をどうすべきか、分からない部分が多い。会社法、そして会社法施行規則は、決定すべき事項を明示しているので、その限度で明確性が保証されているという意味がある。「安全な速度で通行せよ」であったものが「40km以下で通行せよ」になっている、ということになる。
(同上)

の部分は、やはり同意しかねる。繰り返しになるが、会社法は、「決定すべき事項を明示している」といっても「やるべき範囲」を示していないのだから、「40km以下で通行せよ」のような明確な基準たりえない。なお「安全な速度で通行せよ」の範囲に留まるといわざるを得ないのである。以上。