「高度IT人材の育成をめざして(案)」に対する意見

本日提出期限のパブコメをようやく経済産業省商務情報政策局情報処理振興課に提出。以下、全文引用する。

「高度IT人材の育成をめざして(案)」に対する意見
「高度IT人材」に求められる役割やスキルは、各企業の状況(業種、規模等)により異なるため、これを一律に定義することは困難である。しかし、国の施策として、ある程度の汎用性や柔軟性を持たせた上で、人材像や情報処理試験として制度化することは、ITに関わる組織や個人が目指すべき指標、あるべき姿を示すという点で社会に与える影響が大きく、極めて重要な意義を持つ。

ITユーザー企業(以下「ユーザー企業」と表記)においては、1990年代後半以降のいわゆる「IT革命」を通じて、事業戦略や業務改革のツールとしてITが導入され、すでに広い範囲に普及している。また、IT製品やサービスは、普及に伴い年々汎用品化し、相対的に安価になってきている。こうしたなかで、ユーザー企業としては、今後いかにしてIT活用による効果を実現し、他社との差別化を図りうるかが課題となっている。具体的事例としては、大規模な世代交代に伴うものづくりの技能・ノウハウの伝承や、内部統制・リスクマネジメントなどの領域において、IT活用を含む情報伝達・共有の仕組みの巧拙が企業価値を左右する要因となっている。

即ち、「どのような情報システムを企画・開発するか」という課題に加えて、「既存の情報システムを含め、どのように情報システムを活用し、改善するか」という課題のウエイトが増大してきており、その解決のためには、情報システムの企画、開発、運用を含む全てのプロセスに一貫して責務を負う人材の確保・育成が、従来にも増して重要になっている。

今回公表された産業構造審議会情報経済分科会情報サービス・ソフトウェア小委員会人材育成WG報告書「高度IT人材の育成をめざして(案)」(以下、「報告書案」と表記)は、ユーザー企業を含めた産業全体を対象に、人材育成を支援する施策について総合的観点から提言されており、全体としては企業が直面する課題を解決する上で示唆に富む内容になっている。その上で、主としてユーザー企業の競争力強化の観点から、制度設計・運用にあたり留意すべきと思われる事項について、意見を申し述べることとする。

1.人材像・人材類型について

今回の報告書案に示された3つの人材像と9つの人材類型は、ユーザー企業における機能・職位の単位としては、やや細分化されすぎているきらいがある。例えば、中小企業においては、そのような専門職を個別に配置・育成することはコスト負担が大きく、現実的には難しいと思われる。一方、大企業においても間接部門の人員削減が行われるなか、情報システムに関する機能のアウトソーシング化が進展し、社内の情報システム部門には、システム企画・計画・予算等の管理的機能のみを残しているという事例も多く見られる。

しかし、上述したように、現在、ユーザー企業が直面する課題を解決するためには、「情報システムの企画、開発、運用を含む全てのプロセスに一貫して責務を負う人材」こそが求められている。報告書案に示された「ストラテジスト」のように戦略・計画の策定のみを専ら担当する人材や、「セキュリティアドミニストレータ」のように特定分野に特化した専門技術者は、必要に応じてコンサルティング会社やITベンダー等を活用することで足りる。

ユーザー企業が求めているのは、「ストラテジスト」の役割に加えて、「ソリューション系」の人材、特に「システムアーキテクト」「ITサービスマネージャ」にまたがる役割・スキルを持った人材である。さらにセキュリティについても、利便性と安全性の両立ないしバランスの考慮が求められる中で、セキュリティのみの専門家ではなく、セキュリティの要素を考慮した情報システムの企画・開発・運用を遂行する人材が必要となっている。

また、ユーザー企業において、高度IT人材は情報システム部門のみならず、製造、販売、購買、財務、人事、総務などあらゆる業務部門において必要とされている。各々の部門においても、事業戦略や情報システム戦略のみを担当する管理スタッフではなく、業務改革のリーダーとして、そのPDCAを主体的・継続的にマネジメントできる人材が求められている。

即ち、ユーザー企業においては、細分化された機能単位ではなく、機能横断的な役割・スキルを持った人材を、情報システム部門のみならず業務部門を含むあらゆる部門において配置・育成していく必要がある。国の施策は、このようなユーザー企業における高度IT人材の実情を踏まえた課題を十分認識するとともに、その解決を促進しうるものであることが望まれる。

2.情報処理技術者試験制度の見直しについて

報告書案では、情報処理技術者試験について、レベル1〜3は全ての人材類型に共通の試験とし、レベル4について人材類型ごとに試験を行う案が提示されている。

しかし、上述のようにユーザー企業で求められる機能横断的な役割・スキルを持った人材を育成していくためには、むしろ、低いレベルにおいては、所属する部門で担当している特定分野の知識を判定する試験とし、高いレベルにおいては分野横断的・総合的なスキルを判定する試験を行う必要がある。従って、人材類型の特性に応じて、幅広い知識に基づく応用力を問う試験と、特定の分野における深い専門性を問う試験に分けるといった柔軟な試験制度とする余地があるのではないか。

なお、現状、初級システムアドミストレータ試験の合格者は、全国に約50万人存在している。しかし、現行制度上、次のキャリアパスに位置づけられている情報セキュリティアドミニストレータ試験の合格者は約2万人しかおらず、さらに上位資格である上級システムアドミニストレータ試験にいたってはわずかに約3千人しか合格していない。その理由としては、初級〜上級間の難易度のギャップが大きいこと、セキュリティに特化した試験はユーザー企業にはなじみにくいこと等が挙げられる。即ち、ユーザー企業において多数存在する初級システムアドミニストレータにとって「次のキャリアパス」となる適切な人材類型や試験区分が存在していないことが、IT人材育成上のネックとなっている可能性がある。

そこで例えば、情報セキュリティアドミニストレータ試験と上級システムアドミニストレータ試験を統合・再編し、午前問題(選択式)および午後I問題(記述式)までの合格者を「中級」、午後II問題(論文)までの合格者を「上級」とするといった案が考えられる。

3.高度IT人材によるコミュニティ活動の支援について

報告書案では、高度IT人材育成に向けた具体的施策の一つとして各専門分野の高度IT人材による自立的なコミュニティ活動を支援する旨の記述がある。高度IT人材は、各企業の単位では非常に少数しか存在しないため、企業横断的、異業種交流的なコミュニティによる情報交流、相互研鑚の場を設け、自発的な参画を促していくことは、人材育成ひいては企業競争力強化に資するものとして極めて有意義であり、本施策を強く支持する。

高度IT人材による自立的なコミュニティの中には、高度情報処理技術者試験の合格者を中心に構成する「上級システムアドミニストレータ連絡会」「システムアナリスト協会」などがあり、研修会や情報発信など活発に活動を展開している。このような既存のコミュニティが、人材類型の定義や情報処理技術者試験制度の変更によって、人的資源の拡大・再生産に混乱を生じたり、結果として活動の停滞・縮小につながることがないよう、具体的施策の立案にあたり、関係当事者からの意見聴取等により実情等を把握したうえで、慎重に検討を行う必要があると考える。
以 上

個人名でのパブコメ提出は、法務省金融庁に続いて3度目。これまで不本意にも惨敗を喫しているが、三度目の正直、リベンジなるか?