「その他」と「その他の」の違い

法律の条文に使われる言葉は、厳密な使い分けが行われているらしい。例えば、「その他」と「その他の」のように、「の」が入るかどうかで意味が異なる。

法律学の教科書などでは,法律学は言葉に厳密で,論理的な学問であるとされる.言葉に厳密であることの例として,「その他」と「その他の」の使い分けなどがあげられることが多い.「その他の」というのは,その前に記された語句が後ろに記された語句の一部に含まれる場合であり(例:著しく危険,不快,不健康又は困難な勤務その他の著しく特殊な勤務) ,「その他」というのは,その前後に単に並列的に語句が並べられる場合である (例:特殊勤務手当の種類,支給される職員の範囲,支給額その他特殊勤務手当の支給に関し必要な事項).
http://www.j.u-tokyo.ac.jp/~sota/essay/legalese.html

つまり、「A、B、Cその他D」は「A、B、CおよびD」の意味、「A、B、Cその他のD」は「A、B、Cを含むD」の意味になる。

有名な憲法第9条は、

陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。

「その他の」とあるので、陸海空軍を含むあらゆる戦力を保持しない、という意味になる。

前置きが長くなったが、件の新「会社法」第362条は、

取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制

「その他」とあるので、AおよびB、つまり「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制」および「株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制」の2つの体制を指していると解される。
この点に関し、立法担当者の一人である法務省大臣官房参事官氏が自ら以下のように述べている。

会社法362条4項6号の体制とは、まず法令および定款に適合することを確保するための体制、これが一つです。その他法務省令で定める体制、これがもう一つです。」
(「商事法務」No1739、2005年8/5-15合併号 P17)

しかし、「業務の適正を確保するために必要なもの」には、当然「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合すること」が含まれる(法令遵守は適正な業務の大前提!)ので、「その他の」と訂正すべきではないかと思うが、いかがであろうか。